このトンネルを抜けるとき

私は横浜F・マリノスが好きだ。

 

たまたまチケットが当たって観に行った日本代表戦。マリノス所属のとある選手のプレーを見て「すっごい上手い!」と感心して、その後、東戸塚まで練習見学に行ったり試合を観に行ったりして、すっかりその人(仮にS選手とします)にハマってしまった。

 

きっかけはそのS選手だったけど、他の選手を覚えていき、プレースタイルなんかもわかるようになると、マリノスというチームにどんどん愛着が湧いた。

気がつけば、S選手が海外でプレーするようになった後も、毎試合スタジアムに行き、マリノスを応援していた。マリノスは生活の一部となって、胸を張って「マリノスサポーター」と言えるようになった。

 

サポーター活動もすっかり板に付いた2010年。S選手はマリノスへ戻ってきた。うれしさとどこかすっきりしない気持ちとが同居する奇妙な状態だった。ユニフォームは10番になるまで買わなかった。

それでも試合を決めるプレー、特に直接FKはすごく、やっぱり彼が好きだなと何度も思わせられた。2013年、あの活躍を見せてくれた彼とリーグ優勝できなかったことは、今も悲しい思い出だ。

 

でも、影響力の大きさは諸刃の剣だった。彼がいるいないでまったく別のチームのようになってしまう。この歪な状態から抜け出さないと、マリノスの未来はないと感じていた。だから、S選手を好きだと思いながら、彼からポジションを奪う選手を切望するという矛盾の世界に突入してしまった。

 

2015年からCFGと提携したマリノスは、エリク・モンバエルツ監督を招聘。エリク体制は、S選手への依存からの脱却とそれに抗うS選手、そんな構図がずっと続いていたように思う。私は相変わらず矛盾を抱えてスタジアムに通っていた。

 

そんな状態に光が見えたのは、2つのゴールを見たときだった。

2016年11月12日の天皇杯4回戦新潟戦、後半ATの直接FKからのゴール。そして、12月24日の準々決勝G大阪戦で後半に決まったミドルシュート

新潟戦で劇的なゴールを決めた彼は、ヒーローインタビューでクリスマスイブの準々決勝に向けて、「サンタさんになります!」とリップサービスをしてくれた。それは現実のものとなった。求めていた次世代の活躍。それも2試合連続で。出来過ぎでボツになる漫画のようだった。

年明けにS選手はマリノスを去った。

 

サポーターは報われないことの方が多いとつくづく思う。負けた試合の後、横浜アリーナのコンサート帰りの幸せそうな顔をした集団と鉢合わせしたときは、やりきれない気持ちになったりもする。でも、こういうとびっきりの瞬間があるのを知っているからやめられないし、このとき感じた思いはまだ色褪せないで、残り続けている。

 

2018年。新監督を迎えて、新しいスタイルに取り組むマリノスがなかなか結果を出せないことが、もどかしくて歯がゆくて仕方ない。だけど、「今」もマリノスが紡ぐ歴史の一部になっていくことを考えれば、ここが耐え時だとも思う。

 

このトンネルを抜けるとき、 願わくは14番の彼の有無を言わせぬ活躍を。 

天野純はそれができる選手だと思うので。